大阪地方裁判所 平成7年(ワ)3274号 判決 1998年9月17日
原告
小川裕之
被告
柿内豊
主文
一 被告は、原告に対し、金六五万七四〇〇円及びこれに対する平成六年七月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、一〇分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。
四 この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告は、原告に対し、金五四三万八五三一円及びこれに対する平成六年七月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、原告が、駐車中の原告所有の普通貨物自動車に普通貨物自動車を衝突させた被告に対し、民法七〇九条に基づき、物的損害の賠償を請求している事案である。
一 争いのない事実等(証拠により認定する場合には証拠を示す。)
1 本件事故の発生
(一) 発生日時 平成六年七月一一日午前一〇時三五分ころ
(二) 発生場所 大阪府守口市南寺方中通三丁目三八番地先路上
(三) 加害車両 被告運転の普通貨物自動車(登録番号大阪四一ひ八一六五号、以下、「被告車」という。)
(四) 被害車両 原告所有の普通貨物自動車(登録番号大阪八八て八九〇号、以下、「原告車」という。)
(五) 事故態様 被告が、駐車中の被告車を後進させる際、後方に駐車中の原告車後部右側に被告車後部を衝突させた(以下、「本件事故」という。)。
2 被告の責任
被告は、駐車中の被告車を後方発進させるに当たり、原告車の駐車位置に注意を払うなど、後方の安全を確認すべき注意義務があるのにこれを怠り、本件事故を発生させた過失があり、被告には、民法七〇九条により、原告が本件事故により被った損害を賠償すべき義務がある。
二 争点(損害額)
1 原告の主張
(一) 修理代金 二九九万三〇五〇円
(1) 原告車の塗装方法は、パープルの下地に三色のアルミ箔のフレーク(ゴールド、グリーン、ブルー)を吹き付けたものであり、この塗装方法の特徴は、下地のパープルの色を残し、フレークが重ならないようにエアーガンのような道具で均等にフレークを吹き付けるという点にあるので、フレークが重なって異なる色ができると、この塗装本来の目的を失うことになる。
そして、仮に損傷部分だけを補修するボカシ塗装を行えば、周辺部分に古いフレークが残って新しいフレークと重なり、六ないし七色の色が生じ、その結果、全く異なる色が生じてしまう。
(2) 原告車は、走行や運搬という実用車として製作されたものではなく、特殊の内装と外装により広告宣伝車としてその効用を増加させ、また、商品として各企業のイベントやテレビコマーシャル、大阪市主催のイベントなどに貸出すことを目的とする車両であり、車としての機能性よりもその美観が最も重視されるのであるから、光沢、輝きの違いが分かるような部分塗装をした車両を商品として営業に使用できないことは明らかである。
(3) したがって、原告車については、ボカシ塗装により一見して色の違いが分からないような補修をすることは不可能であり、少なくとも車体の折れ目、つなぎ目までは塗装をやり直さざるを得ない。そして、つなぎ目まで塗装をやり直す結果、内装及び外装の脱着工賃費用等も必要となるから、原告車の修理代金は、合計二九九万三〇五〇円となる。
(二) 代車費用 一一二万円
原告は、営業活動の際は、見本として見せるために、原告車と同種の車両に乗って取引先に行く必要があった。原告車の修理と塗装完了までには少なくとも三二日間を要し、代車の使用料は一日当たり三万五〇〇〇円である。
(三) 消費税 二〇万五六五二円
(四) 弁護士費用 八〇万円
2 被告の主張
(一) 修理費用について
本件事故によって原告車に生じた損傷は、原告車両右後部の一部にすぎないのであって、このような損傷の場合には、その損傷部分を修理すれば足りる。
また、原告は、修理後の外観を問題にし、被告の主張する部分塗装では外観に支障を来すというのであるが、原告の要求している水準というのは、一般通常人のレベルではなく、塗装専門家のレベルであり、これは不法行為で認められる「相当性」の基準を大きく超えるものであり、相当因果関係が認められない。
(二) 遅延損害金について
本件事故の処理が長引いているのは、原告が法律論に基づかない過剰な請求を維持し続けたためであり、遅延損害金については、相当な範囲に制限すべきである。
第三当裁判所の判断
一 修理費用 二八万八四〇〇円
(一) 原告車の損傷部分
前記争いのない事実等、証拠(甲二一、四一、乙一、乙一の写真1ないし6、一一、原告本人[第一回])及び弁論の全趣旨によれば、本件事故により、原告車の右リアバンパー部分のリアコンビネーションランプ、リアサイドマーカーランプが脱落し、右リアバンパー付近数カ所に擦過痕が生じ塗装が剥離したが、リアコンビネーションランプの損傷は、すでに修理済みであり、原告において右修理費用を請求していないことが認められる。
(二) リア右マーカーランプ及びリアバンパーの修理費用 一三万円
前記(一)の認定事実、証拠(甲四一、乙一)及び弁論の全趣旨によれば、リア右マーカーランプ及びリアバンパーの修理が必要なこと、右修理のためには、リア右マーカーランプについては部品代一万二〇〇〇円、工賃三〇〇〇円、リアバンパーの修復については一一万五〇〇〇円を要することが認められる。
(三) 塗装代 一五万円
(1) 証拠(甲一二、四一、四二、乙一、一一、証人田林、原告本人[第一回])によれば、前記(一)認定の擦過痕塗装剥離部分の塗装補修について、原告は、原告車の本件損傷部分とその周辺部分だけを塗装すると、古いフレークのアルミ箔以外に新しいフレークのアルミ箔が吹き付けられて、当該部分のフレークの量が増加する結果、色の輝きが変わってくるため、新旧のフレークが増加しないような方法で塗装するためには、原告車のボディーの継ぎ目までの塗装が必要となることを理由に、少なくともパーツ単位の塗装、すなわち別紙図面1の斜線部分についての塗装が必要であるとし、右塗装にかかる費用としては、ボディーの継ぎ目までの塗装を行い、窓枠を外す結果、内装の部品が破損してしまうため甲四一の見積書記載のとおり内装部品の交換に要する費用等が必要となり、合計二七一万三〇五〇円(消費税は除く)と見積もったこと、一方、三井海上損害調査株式会社の大阪中央自動車損害調査センターのアジャスター田林久孝は、塗装範囲としては、リアバンパーと右リア・クォーターパネルの下半分、すなわち別紙図面2の斜線部分(プレスラインより下の部分)のみの部分塗装で足り、右塗装費用としては、原告車の右側下半分が平面ではなく凸凹のある特殊な形状となっていることから、塗装面積が広くなってしまうこと、アストロフレーク塗装ということで塗装費用を三コートパール仕様としたこと等から、通常の二・八倍の割増率を認めて、一五万円(消費税は除く)と見積もったことがそれぞれ認められる。
(2) そこで、塗装費用の損害額として、原告主張のような、パーツ単位の塗装が認められるかどうかについて検討する。
証拠(甲一二、三八、三九、四二[以上いずれも一部]、乙一、検甲一、証人辻[一部]、同岡本[一部]、原告本人[第一、二回][いずれも一部])及び弁論の全趣旨によれば、原告車の塗装方法は、パープルの下地に三色のアルミ箔のフレーク(ゴールド、グリーン、ブルー)を吹き付けたもの(いわゆるアストロフレーク塗装)であること、右アストロフレーク塗装について、いわゆる無段的に新しい塗装部分から古い塗装部分へ色合わせをしていくボカシの方法で部分塗装すると、損傷の周辺部分については新旧のフレークが重なり、若干他の部分と違う色になるものの、視覚的にその違いは素人目にはほとんど区別が付かないこと、またボカシの方法で部分塗装をしても、擦過痕周辺から車体側面のプレスラインより下の部分まで塗装範囲を広げることによって視覚的にはさらに違いが判別しにくくなること、車体側面のプレスラインの上下では、パーツは一体となっているが、プレスラインの下だけを塗装する場合にも、塗装によってプレスラインの上下で段差はほとんどつかず、テープ等を使用することによりプレスラインより下の部分だけを塗装することも十分可能であること、プレスラインよりも下の部分だけを塗装する場合には内外装の脱着は必要ないことがそれぞれ認められ、前掲各証拠中の右認定に反する部分はたやすく信用することができない。
また、原告は、原告車は広告宣伝車であって、車としての機能性よりも美観が最も重要視されるものであるから、光沢や輝きの違いが分かるような部分塗装をした車両を商品として使用することはできない旨主張し、証拠(甲一三ないし二〇、原告本人[第一回])によれば、原告車がいわゆる広告宣伝車であることは認められるが、前記認定のとおり、いわゆるボカシ塗装を施したとしても、素人目にはほとんど区別は付かないのであり、さらに、擦過痕周辺よりプレスラインより下の部分まで塗装範囲を広げることによって、視覚的にはさらに違いが判別しにくくなることが期待し得るのであるから、原告車が美観が重要視される広告宣伝車であることを考慮しても、プレスラインより下の部分のみの塗装で十分であり、原告主張のようにパーツ単位の塗装をしなければならない合理的理由は見いだしがたいというべきである。
以上の認定事実に照らせば、原告車の修復については、別紙図面2の斜線部分(プレスラインより下の部分)のみの部分塗装代金のみを本件事故による損害として認めるのが相当である。
(3) そして、別紙図面2の斜線部分の塗装代金としては前記(1)で認定した田林久孝アジャスターの見積のとおり一・五万円が相当である。
(四) 合計
右(二)(三)の代金に消費税三パーセントを加えると、二八万八四〇〇円となる。(原告主張額二九九万三〇五〇円、消費税除く)
二 代車費用 三〇万九〇〇〇円
証拠(甲三六、三七、証人岡本、原告本人[第二回])及び弁論の全趣旨によれば、原告車は、原告が代表取締役を務める有限会社アルピーヌジャパンの営業用の車両として使用されており、原告車の修理期間中は、同種の他の車両を使用して営業せざるを得なかったこと、そのため、原告は、平成六年一一月一一日から平成七年一月一九日までの七〇日間の内の四〇日間代車を使用し、そのために一二三万六〇〇〇円(一日三万円)を支出したこと、しかしながら、本件事故による塗装修理日数は、車体のプレスラインより下の部分塗装を行う場合には、二、三週間で足りることがそれぞれ認められる。
なお、被告は、代車費用を有限会社アルピーヌジャバンが支払っている点を指摘するが、右会社は、その代表取締役である原告の個人会社であり、経理もいわゆるどんぶり勘定であって、両者を明確に区別しておらず、実質は同一人格と考えてよいから、有限会社アルピーヌジャパンすなわち原告の損害と認めるのが相当である。
以上からすれば、本件事故と相当因果関係を有する代車費用としては、一日当たり三万円として、一〇日間の代車費用の三〇万円に、消費税三パーセントを加えた三〇万九〇〇〇円が相当である。(原告主張額一一二万円、消費税除く)
三 弁護士費用 六万円
弁護士費用としては、六万円が相当である。
四 遅延損害金
被告は、訴訟遅延は原告の責任であるから、遅延損害金は相当な範囲に制限すべきである旨主張するが、右主張の根拠は明らかでなく、採用することはできない。
五 結論
以上のとおり、原告の請求は、被告に対して金六五万七四〇〇円及びこれに対する事故日である平成六年七月一一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるので、主文のとおり判決する。
(裁判官 三浦潤 齋藤清文 三村憲吾)
図面1図面2